のだ。すると、その辺から携帯水が気遣われてきた。
とめどない、渇というような事はまだないのであるが、なにしろ、少量しか飲めないので胃は岩石のように重く、からから渇《かわ》いた食道の不快さに、前途がようやく気遣われてきた。と、その暗道がとつぜん尽きたのである。白い大きな岩塩の壁が、三人の行手を塞いでしまったのだ。
じゃ、盲道だったのか――と、折竹もまっ蒼になった。ことに、セルカークの失望は甚だしく、油層も晦冥国《キンメリア》もすべて全部のことが、いまは阿呆の一夕の夢になってしまったのである。
石油の湖水《うみ》、それに泛ぶ女王ザチの画舫《がほう》。なんて、馬鹿な夢を見続けていたもんだと、かえって折竹を恨めしげにみる始末。と、引き返すことになったその夜のことである。寝ている折竹のそばへ這《は》うようにして、セルカークがそっと忍び寄ってきた。彼が、目を醒ますと慌てたらしく、
「君、君、何なんだよ。もう開口《くち》へ出るまでの、水がないんだ」
「全然か」
「いや、三人分のがない」
と言うセルカークの目がぎょろりと光る。なんだか、殺気のような寒々としたものが、この男の全身を覆うているのだ
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