ルの道、北は、新疆《しんきょう》のロブ・ノールから外蒙へまで、あるいはソ領|中央アジア《トルキスタン》へもコーカサスへも、アフガニスタン、イランをとおり紅海のしたから、この地下の道はサハラ沙漠まで、ゆくだろう。そうして、ここに地底の旅がはじまった。
「いい陽気だ」
 と、折竹は口笛を吹きながら、
「暑からず、寒からず……。まことに、当今は凌《しの》ぎようなりまして――だ」
 しかし、進むというが、蝸牛《かたつむり》の旅である。一日、計ってみると、三マイル弱。まだパラギル山のしたあたりの位置らしい。それに、開口のしたあたりでは仄《ほん》のりと匂っていた、|石油ガス《ギャス》の臭いがまったく今はない。
「どうも風邪を引いたのかな」
 とセルカークが気になったように、言いだした。
「折竹君、ガスのにおいが全然ないと思うが……」
「そうらしい。たといあるにしろ、小ぽけなやつだろう。採油など、覚束《おぼつか》ないようなね」
「ふむ」
 とセルカークは不機嫌らしく黙ってしまった。当がはずれたのではないかと思うが、先があること。まだまだというように気をとり直すセルカークを見て、折竹はなんて奴だと思う
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