のような人影。やがて、折竹はボロリと眼鏡を落し、
「ザチ」
 と、さながら放心したような呟き、
「ザチ※[#疑問符感嘆符、1−8−77] いったい何のこったね」
 とセルカークが訊いても聴えぬかのように、
「覗き穴はある。ザチはソ連の女ではなかった。真実、『大盲谷』に住むキンメリアの女王。おい、セルカーク、あれを見ろ」
 いわれて、目をこすりこすり驕魔台《ヤツデ・クベーダ》のうえをみると、今いた――ほんの秒足らずの瞬前までくっきりと見えていた、ザチの姿が掻き消えたように見えないのだ。覗き穴、彼女は「大盲谷」へ降りたのだろう。しかし、追おうにも、暁は濃い。朝の噴射とともに熱殺界となる、此処ではどうにもならないのだった。
 しかし、驕魔台のうえでザチを発見したことから、いよいよ「大盲谷」の実存性が濃くなってきた。そうしてこれには、むしろ手も付けられない塩の沙漠よりかも、「大地軸孔《カラ・ジルナガン》」のほうを攻撃してはと、なったのだ。そのころ、大地軸孔探検についての、国際紛争が解決した。英ソ双方とも監視者をだすことになり、英はセルカーク、ソ連は、極氷研究家のオフシェンコという男。また、折竹
前へ 次へ
全46ページ中34ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング