けられている。
「これが、エスピノーザ閣下を遇する方法かね」
 さすが、折竹の声は顫《ふる》えもせずに、発せられる。そうして、眼前の男をつくづくながめると、それは狐のような顔をしたイギリス人。さてはと、彼は何事かを覚ったのである。そこへ、その男が圧するような声で、
「折竹さん、一言ご注意しておきますが、われわれには力がある。どうです、ここで荒らだって、からだを失くしますかね。イギリス保護領のこの空港には、いたる所に銃口が伏さっている。マア、暫くご辛抱願いましょう」
 アラビヤ兵の白衣《バーナス》が点々とみえていたのが、眼隠しをされ、まっ暗になる。男は、彼を自動車にのせ、一時間ばかり運んでいった。やがて、家らしいものに着くと、眼隠しをとられる。彼のまえには顎《あご》骨のふとい、大きな男がぬうっと立っているのだ。五十ばかりでほとんど表情がない。それが却って、悚《すく》めるような凄味。
「儂《わし》は、ある任務の男で、セルカークといいます。今夜は、あなたとは大変不本意な会見で……」
「驚いたですよ。マア、大抵なところでご大赦に願いたいですな」
 といまは度胸もすっかりすわった折竹は、臆す色も
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