の生活をみていると、しみじみその言葉が胸うつように響いてくるのだ。いまイギリス人は、わずかを働いて多くをとっている――その、余裕|綽々《しゃくしゃく》ぶりはなにに由来する※[#疑問符感嘆符、1−8−77] インド、濠州《オーストラリア》、南|阿《アフリカ》、カナダ――みな一、二世紀まえの探検の成果だ。
するとじぶんに、民族の血をとおしてした探検があったろうか。時代がちがうとはいえ最小の効果でも、国にたむける意味の探検があったろうか。文化の貢献者という美名にあこがれて、ただそれだけのために働いていたのではないか。と思うと、泣きたいような気持になる。これまで彼がしたすべての事が、いまは些細な塵《ちり》のようにしか見えなくなったのだ。もう、大地軸孔へ行く気力などはない。
まして、独逸航空会社《ルフト・ハンザ》は純文化的意味だというけれど、この「大地軸孔」探検はそんなものではないらしい。近東空路を、はるばるアフガニスタンの首府カブールまで伸ばしてきた、独逸航空会社には一層の野心があるのだろう。英ソの緩衝《かんしょう》地帯である「大地軸孔」一帯を精査して、ナチスの楔《くさび》を南新疆にうちこ
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