うような目をして、
「あの方を、ほんとに旦那さまは、ご存知ないのですか」
「知らんねえ、一向イランやあの辺の人には、近付きがないからね」
「そう、じゃ私、勘違いしてたのかしら……」
「どんな事だ」
「じつは、私、こう考えていたんですの。どこか、近東の古いお寺から、旦那さまが宝物をお盗みになった。その跡を蹤《つ》けてはるばるあの方が、『月長石《ムーン・ストーン》』のように追ってきたんじゃないかしら……。宝物を返せ、さもなくば殺してしまうぞ――って、いま、旦那さまは嚇されてるんじゃない※[#疑問符感嘆符、1−8−77] ホホホホホホ、お怒りになっちゃあたくし、困りますわ」
 こんな冗談から、なにか引きだそうとする部屋付女中の態度も、折竹には不愉快な一つだ。しかし彼は、なぜ「大地軸孔」ゆきを断念したのだろう。こういう、英官辺の厭がらせのためか……それとも真実「大地軸孔」は征服不可能なのか。いや、彼のゆくところ砕けざる魔境はない。では、それはどういう理由《わけ》だろう。
 ――探検とは、国という砲身のはなつ弾丸なり。
 この言葉を、彼は忘れていたわけではないけれど、いまロンドンにいてイギリス人
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