檻の戸をあけたおのぶサンの手をかい潜って鯨狼《アー・ペラー》がとび出した。
「来てよ、鯨狼がとび出ちゃったよオ」と、おのぶサンがあわててどなる間に、鰭《ひれ》でヨチヨチとゆきながら大分な距離になっている。一同が、網を片手に走りだそうとするとき、とつぜん、鯨狼が氷罅のなかに落ちたのだ。その縁にきて下をのぞき込んだとき、折竹の顔色がみるみる間に変ってゆく。
「オヤ、この氷罅《クレヴァス》のなかは、青い光じゃない。緑玉色《エメラルド・グリーン》をだすのは、海氷《シー・アイス》じゃないか」
 普通陸地の氷罅は、内部《なか》が美麗な青い光に染まっている。しかしここは、陸上にもかかわらず緑玉色の鮮光、それは、まず海氷以外にはないことだ。で、試みに綱をさげると、その端がしっかりと湿ってくる。甜《な》めると、それが海水の味。さすが折竹も、オロオロ声になって、
「諸君、僕は鯨狼《アー・ペラー》のために、大変な発見をした。ここは、グリーンランドを二つ三つに割っている、せまい海峡の一部なんだ。ミュンツァ博士が、なぜ新領土云々の通信をしたかということが、これでハッキリと分った。
 つまり、南部以下の沿岸をデン
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