る富源のようなものでもない限り、またそれを、あの一味が知る機会がないかぎり……と、なおも折竹は執拗に畳みかけてゆく。
「では君が、僕に未知の国の所在を、売ろうと言ったわけは? あのお父さんの怪無電以外に、もっとこの問題を現実付けるものが、なけりゃならんね」
「それは」とクルトがぐびっと唾をのむ。ついに、ここに最終のものが現われるか。「それは、あの鯨狼《アー・ペラー》がどこにいたか。私が、あの奇獣をどこで捕まえたか」
「なに、鯨狼を捕獲した場所※[#疑問符感嘆符、1−8−77]」
「そうです。父のあの無電を現実付けるものが、鯨狼の捕獲位置にあるのです。それが、北緯七十四度八分。西経……」
 と、言いかけたとき、怖ろしいことが起った。とつぜん、窓|硝子《ガラス》がパンと割れたと思うと、クルトの顳※[#「需+頁」、第3水準1−94−6]《こめかみ》にポツリと紅いものが……。彼が、ポカンと馬鹿のように口を空けていたのも瞬時、たちまち、崩れるように床へ転げ落ちてしまったのだ。
 ルチアノ一味の手が肝腎なところの瀬戸際で、クルトの口を塞いでしまったのである。西経……、ああそれが分れば。

   「
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