するために大変な筋書を書く──というような奴が、ゴロゴロしていますから。そこへゆくと、あっしらのは実業《ビジネス》で……」
と、これがルチアノの帰りしなの台辞《せりふ》だった。
二人が帰ると、ギャングという初対面の怪物よりも、なにを彼らが企てつつあるのか、陰の陰の秘密のほうに心が惹《ひ》かれてゆく。
極洋──そこにルチアノ一味がなにを目指している※[#疑問符感嘆符、1−8−77] いわば変態ではあるが一財閥ともいえる、ルチアノ一派の実力で何をしようとするか※[#疑問符感嘆符、1−8−77] またそれがあの手紙の主とどんな関係にあるのだろう※[#疑問符感嘆符、1−8−77] と思うと、イースト・サイドの貧乏窟でせっかくの秘密をいだきながら、ギャングの圧迫のためうち顫《ふる》えている、一人の可憐な乙女が想像されてくる。
未知の国売物──それと、ルチアノ一味のギャングとのあいだには、見えない糸があるのではないか。
行ってみよう、彼はやっとその気になった。が「老鴉《オールド・クロウ》」というその酒場へいってみると、すでに日も過ぎたが、それらしい人影もない。見えない秘密、いや、逸してしまった秘密……とやきもきとした一夜が過ぎると、翌朝はケプナラとともにウィンジャマー曲馬団《サーカス》。いま、彼はあれこれと思いながら、奇獣「鯨狼《アー・ペラー》」のまえに立っているのだ。すると、ケプナラがウィンジャマー親方に、
「だが、よくこの鯨狼《アー・ペラー》は餌につきましたね」
「そこです。最初は、誰がやっても見向きもせんでした。ところが、相縁奇縁《あいえんきえん》というかたった一人だけ、この先生に餌を食わせる女がいる。呼びましょう。オイ、牝河馬《ファティマ》のマダムに、ここへ来るようにって」
と、やがて現われたのが意外や日本人。“Onobu−san《オノブ・サン》, the Fatima《ゼ・ファティマ》”──すなわち大女おのぶサンという、重錘揚げの芸人だ。身長五尺九寸、体重三十五貫。大一番の丸髷《まるまげ》に結って肉襦袢《タイツ》姿、それが三百ポンドもある大重錘をさしあげる、大和撫子《やまとなでしこ》ならぬ大和|鬼蓮《おにはす》だ。
狂人の無電か
「おやおや、故国《くに》の人だというから、もうちっと好い男だと思ったら……。えっ、あんたがあの、探検屋折竹※[#疑問符
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