ュんだ、銅光りのする顔がちょっと覗いたが、それはやがてひれ伏した。
「生き観音《ミンチ・カンキン》[#ルビは「生き観音」にかかる]、おう、まことの観音《カンキン》とは貴女《あなた》さまじゃ。毘沙門天《ヴィシュラヴナ》の富、聖天《カネシャ》の愉楽を、おう、われに与えたまえ」
ケティには、なんでそういわれたのか、考える頭脳《あたま》はない。常人でも、それはじつに解しがたいことだ。しかし彼女は、それを機会にてんで無口になった。それまでの、のへのへと笑み妄言《もうげん》を言うケティは、もう何処かへ消えてしまったのだ。ただ、「天母生上の雲湖《ハーモ・サムバ・チョウ》[#ルビは「天母生上の雲湖」にかかる]」を覆う密雲をのぞんでは、時々、きらっと光っては消える大氷河のかがやきに……そのときの笑みはてんで違うものになっていた。彼女は、なにかの叫び声をうけはじめたのだ。
「ケティは、何処にいるね」ダネックがちょっと意気込んだ声で折竹に訊いたが、相手の様子をみるといきなり言い紛《まぎら》わせ、「いやね、大氷河のしたのAF点の傾斜を測りたいんだ。ケルミッシュ君がいじっていた経緯計《セオドライト》はどうした
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