ゥ。その地底までも届くようなおそろしい根を、マヌエラは怪物のようにながめていた。この時耳もとで座間の声がした。
「おう、深井の根《プティ・ラディックス》[#ルビは「深井の根」にかかる]!」
それが、旧根樹《ニティルダ・アンティクス》という絶滅種ではないのか。根を二十身長も地下に張るというこのアフリカ種は、とうに黒奴《こくど》時代の初期に滅びつつあったはずである。
と、見る見る視野がひらけた。
思いがけぬ崩壊が風をおこして、地上の濛気《もうき》が裂けたのである。とたんに、三人がはっと息を窒《つ》めた。それまで、濛気に遮《さえぎ》られてずっと続いていると思われた密林が、ここで陥没地に切り折れている。
悪魔の尿溜《ムラムブウェジ》[#ルビは「悪魔の尿溜」にかかる]――。
と三人は眩くような亢奮に我を忘れた。陥没と、大湿林の天険がいかなる探検隊もよせつけぬといわれる、この大秘境の墻《かき》の端まできたのだ。と思うと、眼下にひろがる大|摺鉢地《クレーター》のなかを、なにか見えはせぬかと瞳を凝らしはじめる。
しかしそこは依然として、濛気と昆虫霧が渦まく灰色の海で、絶壁の数かぎりない罅《
前へ
次へ
全91ページ中68ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング