A風化した花崗石《グラナイト》のまっ赭《か》な絶壁。そこから、白雲と山陰に刻まれはるばるとひろがっているのが、悪魔の尿溜につづく大樹海なのである。
翌暁、赭《あか》い泥河《でいが》のそばで河馬《かば》の声を聴いた。その、楽器にあるテューバのような音に、マヌエラは里が恋しくなってしまった。
しかしまだ、ここは暗黒アフリカの戸端口《とばくち》にすぎない。きのう見た、藪地のおそろしい棘草《きょくそう》、その密生の間を縫う大毒蜘蛛《タランツラ・マグヌス》――。しかし今日は、いよいよ草は巨《おお》きく樹間はせまり、奥熱地の相が一歩ごとに濃くなってゆくのだ。そして、この三日の行程が四十マイル弱。最後の根拠地となるマコンデ部落にはいったのが、翌日の午《ひる》過ぎだった。
ここから、想定距離二十マイルの山陰に、悪魔の尿溜の東端をみるはずなのである。そしていよいよ、これまで経てきた平穏な旅はおわり、百年の道にも匹敵するその二十マイルへ、悪魔の尿溜攻撃がはじまるのだった。
「とんでもねえ。荷担ぎ《バガジス》[#ルビは「荷担ぎ」にかかる]にゆきァ、死にに往《ゆ》くようなものさァ」
酋長がぐいぐい棕櫚
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