れているばかりでなく、兎唇《みつくち》、瘰癧《るいれき》、その他いろいろ下等な潰瘍《かいよう》の跡が、頸《くび》から上をめまぐるしく埋めているのだった。
 それらは、疾病《しっぺい》放縦などの覆い尽せない痕跡なのであろうが、一方彼が常に、砲手として船に乗るまでは数学者だった――などというところをみると、そのかずかずの醜さは、とうてい彼の品位が受け入れるものとは思われなかった。
 むしろ、その奇異《ふしぎ》な対象から判断して、事実はその下に、美しい人知れない創《きず》があって、それを覆うている瘤《こぶ》というのが、あの忌わしい痕のように考えられもするので、もしそうだとすると、ヴィデには二つの影があらねばならなくなるのだった。
 それから、犬射復六は小肥りに肥った小男で、年配はほぼヴィデと同じくらいであるが、一方彼は詩才に長《た》け、広く海洋の詩人として知られている。
 柔和な双顎《ふたあご》の上は、何から何まで円みをおびていて、皮膚はテカテカ蝋色に光沢《つや》ばんでいる。また唇にはいつも微かな笑いが湛えられていて、全身になんともいえぬ高雅な感情が燃えているのだった。
 それに反して石割苗
前へ 次へ
全147ページ中8ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング