いるのです。
そして[#「そして」に傍点]、もしやしたら[#「もしやしたら」に傍点]、シュテッヘ大尉が[#「シュテッヘ大尉が」に傍点]、そのときもまだ不思議な生存を続けていて[#「そのときもまだ不思議な生存を続けていて」に傍点]、友に最後の友情をはなむけたのではないか[#「友に最後の友情をはなむけたのではないか」に傍点]。つまり[#「つまり」に傍点]、艇長の遺骸を[#「艇長の遺骸を」に傍点]、海の武人らしく[#「海の武人らしく」に傍点]、母なる海底に送ったのではないか[#「母なる海底に送ったのではないか」に傍点]――というような、妄想めいた観念がおりふし泛《うか》び上がってきて、儂を夢の間にも揺すり苦しめるのでした」
老人はそこで言葉をきり、吐息を悩ましげに洩らした。しかし、そのシュテッヘ大尉事件の怖ろしさは、艇長消失の可能性をも裏づけて、妙に血が凍り肉の硬ばるような空気をつくってしまった。
続いて老人は、現在|維納《ウイン》において艇長生存説を猛烈に煽り立てているところの、不可思議な囚人のことを口にした。
「しかし、一方共和国は、ハプスブルグ家の英雄を巧みに利用して、今や復辟運
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