ワ『|鷹の城《ハビヒツブルグ》』の中で肉眼には見えぬ不可解な生活を続けていたのです。ですから、僕はいま、その漂浪《さまよ》える人を、防堤の上で証明しようとしているのですよ」
「そうしますと法水さん。その一人二役の意味を、童話以上のものに証明お出来になりまして」
とウルリーケは嘲るように云ったが、その声にも、羞恥と憎悪の色を包み隠すことはできなかった。
「だいたい他人の姿に変るということは、小説では容易であっても、事実は全然不可能だろうと思われるのです。それでは、シュテッヘの顔を御存知なのでいらっしゃいますか。実は一枚、あの方の写真があるのですけど、それはまだ、お眼にかけてはおりません」
「ところが夫人《おくさん》、だいたいが、トリエステの早代りさえも映ろうという僕の眼に、そんなものは、てんから不必要なのですよ。たしかシュテッヘは、黒髪《ブルネット》で、細い唇よりの髭と、三角の顎髯《あごひげ》をつけておりましたね。そして、だいたいの眼鼻立ちや輪廓が、艇長と大差なかったのではありませんか」
「ああ、どうしてそれが」
と咄嗟に度を失ってしまい、ウルリーケの胸が、弛んだ太鼓のように波打ちは
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