ような瞳があった。
両端が鋭く切れすぎた唇は、隙間なくきりりと締っていて、やや顎骨が尖っているところといい、全体としては、なにかしら冷たい――それが酷《むご》いほどの理性であるような印象をうけるけれども、また一面には、氷河のような清冽な美しさもあって、なにか心の中に、人知れぬ熾烈《しれつ》な、狂的な情熱でも秘めているような気もして、おりよくその願望が発現するときには、たちまちその氷の肉体からは、五彩の陽炎《かげろう》が放たれ、その刹那、清高な詩の雰囲気がふりまかれそうな観も否めないのだった。
しかし、ウルリーケのすらっとした喪服姿が、おりからの潮風に煽られて、髪も裾も、たてがみのように靡《なび》いているところは、どうして、戦女《ワルキューレ》とでも云いたげな雄々《ゆゆ》しさであった。
空は水平線の上に、幾筋かの土堤《どて》のような雲を並べ、そのあたりに、色が戯れるかのごとく変化していった。彼女はしばらく黙祷を凝《こ》らしていたが、やがて、波間に沈んだ声を投げた。
その言葉はかずかずの謎を包んで神秘の影を投げ、しばらくはこの岬が、白い大きな妖しげな眼の凝視の下にあるかのようであっ
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