》きには、もう既に呆れを通り越してしまって、何か凸凹の鏡面でも眺めているような、不安定なもどかしさを感じて来るのだった。然し、そうしているお筆を見ていると、その身体には日増しに皮膚が乾しかすばって行って、所々水気を持った、黒い腫物様の斑点が盛り上って来た。それでなくとも、鼻翼《こばな》や目窪や瞳の光りなどにも、何となく、目前の不吉を予知しているような兆が現れているので、最早寸秒さえも吝《おし》まなくてはならぬ時期に達しているのではないかと思われた。勿論光子は、怖ろしがって近付かなかったけれども、杉江は凡《あら》ゆる手段を尽して、お筆の偏狂を止めさせようとした。が、結局噛みつくような眼で酬《むく》い返《かえ》されるだけで、彼女は幾度か引き下らねばならなかったのだ。然し、その四日目になると、お筆は杉江を二階に呼んで、意外な事にはその一等室の買切りを命じた、しかもその上更に一つの条件を加えたのであったが、その影には、鳥渡説明の出来ぬような痛々しさが漂っていて、生気を、その一重に耐《こら》え保っている人のように思われた。
「とにかく、いずれ私の死に際にでも、その理由は話すとしてさ。さぞ、お前さ
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