連らねた線が、姉さんの脳髄から跳ね出した火花なのでした。判りませんか……鉄管の先端から始まって、霙《みぞれ》の溶水で下へ伸びて行く氷柱《つらら》がそれなんですよ。しかし、それ以前に一つの仕掛を用意しておく必要がありました。と云うのが一巻の感光膜《フィルム》でして、それを鉄管から動力線までの垂直線より少し長めに切って、その全長に渉って直線に一本引いた膠剤の上に、アルミニウム粉を固着させておいたのです。さてそれから、その側を内にして巻いた端に輪形を作ったのですが、その一巻の感光膜《フィルム》を短剣の発見場所だった紙鳶に結びつけて、飛ばせました。そして、感光膜の輪を鉄管の先端にうまく篏《は》め込むと同時に、鈎切《がんぎり》につけたもう一本の糸を操《あやつ》って感光膜《フィルム》を結びつけた糸を切り、更に、その鈎切で、垂直下に当る動力線の一点に傷をつけたのです。で、この仕掛で、頭上の大鐘に何を目論《もくろ》んだと思います?」
「サア。」イリヤは姉の犯罪のこともどこへやら、好奇心で眼をクリクリさせた。
「その目的は、大鐘を傾斜させていたものを取り除くにあったのです。で、それを云う前にぜひ触れておかねばならないのは、一昨日の天候です。なぜかと云うと、横殴りの風を伴った霙《みぞれ》の真最中五時頃に、姉さんは犯行の最初の階段を踏んだからです。あの時振綱の真下で父娘が猛烈な争論をしたと云いましたが、姉さんの真実の心は他にあったのです。足でだんだんと綱の端を踏みながら、片手に渾身の力と体重をかけて徐々に綱を引き、鐘を傾けました。無論小鐘は水平になったでしょうが、大鐘はやや傾いて振錘《ふりこ》が内壁に接触します。ところが、あの吹き降りです。間断なく吹き込んでくる霙は、やがて振錘と内壁とをペッタリ氷結させてしまうではありませんか。しかし、上方に隠れている小鐘には無論影響ありませんが、大鐘は後で綱を戻しても、重たい振錘《ふりこ》が一方の壁に密着しているので、当然重心の偏しただけ傾かねばなりません。」
「そうしますと、鳴らしたのは。」
「電流が振錘の氷結を溶したからです。で、その径路を説明すると……、鉄管の端に集った水滴が感光膜《フィルム》の上に伝わり落ちますが、ツルツルしたセルロイド面からは滑り落ちて、凹凸のあるアルミニウム粉の上にだけ溜ります。そして、そこに出来上った氷柱が、線状なりに長さ
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