から、それは異様なものが現われた。双方の足趾《あし》は、いずれも外側に偏《かたよ》っていて、大きな拇趾《おやゆび》だけがさながら、大|箆《へら》のように見えるのだった。
それは、言わずと知れた、纏足《てんそく》だったのである。
「これを見たら、慈悲太郎の聞いた、足音の主が何者であったか、いまさらくどくどしく、説き明かすまでのこともないであろう。私は、イルクーツクの日本語学校で育てられたとき、漢人に興味を持った、魯人《ろじん》の一人にもてあそばれて、かような痕《あと》を残すようになった。それこそ、木沓を脱いだら、壁に手を支えぬと、私は歩けませぬのじゃ。のうフローラ、なぜに私は、かけ換えのない二人の兄弟――横蔵と慈悲太郎を殺《あや》めたのであろう。それは、そもじを、太夫《だゆう》姿に仕立てたのを見てもわかるであろうが、それとても、そもじが愛《いと》おしく、同胞《はらから》とはいえ妬《ねた》ましく、私の小娘のようにもだえ、またあるときは、鬼神のような形相《ぎょうそう》にもなって、なんの不安もなく懸念《けねん》もなく、いちずに愛の魔術に、愉《たの》しく魅せられ酔わされておったからじゃ。人は、
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