に病理的な潜在物があって、それが、発生から生命の終焉《しゅうえん》に至るまで、生育もしなければ減衰もせず、常に不変な形を保っているものと云えば……」
「と云うと」
「それが特異体質なんです」と法水は昂然と云い放った。「恐らくその中には、心筋質肥大のようなものや、あるいは、硬脳膜矢状縫合癒合がないとも限りません。けれども、それが対称的に抽象出来るというのは、つまり人体生理の中にも、自然界の法則が循環しているからなんです。現に体質液《ハーネマン》学派は、生理現象を熱力学の範囲に導入しようとしています。ですから、無機物にすぎない算哲博士に不思議な力を与えたり、人形に遠感的《テレパシック》な性能を想像させるようなものは、つまるところ、犯人の狡猾《こうかつ》な擾乱策《じょうらんさく》にすぎんのですよ。たぶんこの図の死者の船などにも、時間の進行という以外の意味はないでしょう」
 特異体質――。論争の綺《きら》びやかな火華にばかり魅せられていて、その蔭に、こうした陰惨な色の燧石《ひうちいし》があろうなどとは、事実夢にも思い及ばぬことだった熊城は神経的に掌《てのひら》の汗を拭きながら、
「なるほど、そ
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