それだのに法水は、それを犯罪分析の実際に応用して、空漠たる思惟抽象の世界に踏み入って行こうとする……。
「ああ私は……」と鎮子は露《む》き出して嘲《わら》った。「それで、ロレンツ収縮の講義を聴いて直線を歪めて書いたと云う、莫迦《ばか》な理学生の話を憶い出しましたわ。それでは、ミンコフスキーの四次元世界に第四容積《フォースディメンション》([#ここから割り注]立体積の中で、霊質のみが滲透的に存在し得るという空隙。[#ここで割り注終わり])を加えたものを、一つ解析的に表わして頂きましょうか」
その嗤《わら》いを法水は眦《めじり》で弾き、まず鎮子を嗜《たしな》めてから、「ところで、宇宙構造推論史の中で一番華やかな頁《ページ》と云えば、さしずめあの仮説決闘《セオリー・デュエル》――空間曲率に関して、アインシュタインとド・ジッターとの間に交された論争でしょうかな。その時ジッターは、空間固有の幾何学的性質によると主張したのでしたが、同時に、アインシュタインの反太陽説も反駁《はんばく》しているのです。ところが久我さん、その二つを対比してみると、そこへ、黙示図の本流が現われてくるのですよ」とさながら
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