ジッヒ》 winden《ヴィンデン》(水精《ウンディヌス》よ蜿《うね》くれ)

 久我鎮子《くがしずこ》が提示した六|齣《こま》の黙示図は、凄惨冷酷な内容を蔵しながらも、外観はきわめて古拙な線で、しごく飄逸《ユーモラス》な形に描《か》かれていた。が、確かにこの事件において、それがあらゆる要素の根柢をなすものに相違なかった。おそらくこの時機に剔抉《てきけつ》を誤ったなら、この厚い壁は、数千度の訊問検討の後にも現われるであろう。そして、その場で進行を阻《はば》んでしまうことは明らかだった。それなので、鎮子が驚くべき解釈をくわえているうちにも、法水《のりみず》は顎《あご》を胸につけ、眠ったような形で黙考を凝らしていたが、おそらく内心の苦吟は、彼の経験を超絶したものだったろうとおもわれた。事実まったく犯人のいない殺人事件[#「犯人のいない殺人事件」に傍点]――埃及艀《エジプトぶね》と屍様図《しようず》を相関させたところの図読法は、とうてい否定し得べくもなかったのである。ところが意外なことに、やがて正視に復した彼の顔には、みるみる生気が漲《みなぎ》りゆき酷烈な表情が泛《うか》び上った。
「判りま
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