ナしまって、その紙片を力なげに卓上へ抛り出した。検事が吃驚《びっくり》して覗き込んでみると、それには人の名はなく、次の一句が記されているのみだった。
――昔ツーレ(一)に聴耳筒《ラウシュレーレン》(二)ありき。
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注(一)ツーレ――。ゲーテの「ファウスト」の中で、グレートヘンが唄う民謡の最初の出。その時ファウストから指環を与えられたのが開緒となって、彼女の悲運が始まるのである。
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(二)聴耳筒――。西班牙《スペイン》宗教審問所に設けられたのが最初。ウファ映画「会議が踊る」の中で、メテルニッヒがウエリントンの会話などを盗み聴くあれがそうである。
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「なるほど、聴耳筒《ラウシュレーレン》か――。その恐ろしさを知っているのは、独り伸子のみならずさ」と法水は、苦笑を交えながら独り頷《うなず》きをして、「事実も事実、ファウスト博士の隠形聴耳筒《おんぎょうラウシュレーレン》たるや、時と場所とに論なく、僕等の会話を細大洩らさず聴き取ってしまうのだからね。だから、当然|迂闊《うかつ》なことでもしようものなら、
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