@水は、胸を高く波打たせていて、
「いつぞや、貴女《あなた》はレヴェズを避けて、樹皮亭《ボルケンハウス》に遁《のが》れていましたっけね」
「いいえ、レヴェズ様の死に、私は道徳上責任を負う引け目はございません」と伸子は、息を荒ららげて叫んだ。「実は私、アレキサンドライトを付けました。それで、あの方と二人で、このハルツの山([#ここから割り注]妖魔どもが、いわゆるヴァルプルギス饗宴を行うという山[#ここで割り注終わり])を降りるつもりだったのですわ」
 それから、法水の顔をしげしげ覗き込んで、哀願するように、「ねえ、真実《ほんとう》の事を仰言《おっしゃ》って下さいまし。もしや、あの方自殺なされたのでは、いいえけっして、私がアレキサンドライトを付けた以上……」
 その時法水の顔に、サッと暗いものが掃いて、みるみる悩ましげな表情が泛《うか》び上っていった。その暗影と云うのは――、たしかに彼の心中に一つの逆説《パラドックス》があって、それを今の伸子の言葉が、微塵と打ち砕いたに相違なかった。
「いや、正確に他殺です」と法水は沈痛な声で云ったが、
「しかし、ここへ貴女《あなた》をお呼びしたのは、ほか
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