轤ナある。法水は、召使《バトラー》が持参した紅茶を、グイとあおってから云い出した。
「実際|無比《ユニーク》だ。犯人の智的創造たるや、実に驚くべきものなんだ。この書簡箋は、既《とう》に一年もまえ、現在のものに変えられたというのだからね。勿論それ以前に――あの乾板は、事件の蔭に隠れている、狂人《きちがい》染みたものを映して取っていたのだよ。何故なら、それには、押鐘博士の陳述を憶い出してもらいたいのだ。それでなくても、現在これでも見るとおりに、算哲は遺言書を認《したた》め終ると、その上に、古風な軍令状用《オーディナンス・レター》の銅粉を撒《ま》いたのだった。ねえ熊城君、銅には、暗所で乾板に印像するという、自光性があるじゃないか。ああ、あの序幕《アインライツング》――この恐怖悲劇の序文《アインライツング》。さてこれから、その朗読をやることにするかな。あの夜算哲は、破り捨てた方の一枚を下にして、二枚の遺言書を金庫の抽斗《ひきだし》に蔵めた――ところが、それ以前に犯人は、あらかじめその暗黒《まっくら》な底に乾板を敷いておいたのだ。そうすると、翌朝になって算哲が金庫を開き、家族を列席させた面前で、
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