機があり、色々な関節を動かす細い真鍮棒が後光のような放射線を作っていて、その間に、弾条《ぜんまい》を巻く突起と制動機とが見えた。続いて熊城は、人形の全身を嗅《か》ぎ廻ったり、拡大鏡で指紋や指型を探しはじめたが、何一つ彼の神経に触れたものはなかったらしい。法水はそれが済むのを待って、
「とにかく、人形の性能は多寡《たか》の知れたものだよ。歩き、停まり、手を振り、物を握って離す――それだけの事だ。仮令《たとえ》この室から出たにしても、あの創紋を彫るなどとはとんでもない妄想さ。そろそろダンネベルグ夫人の筆跡も幻覚に近くなったかな」と思う壺らしい結論を云ったけれども、しかし彼の心中には、薄れ行った人形の影に代って、とうてい拭い去ることの出来ない疑問が残されてしまった。法水は続いて、
「だが熊城君、犯人は何故、人形が鍵を下したように見せなければならなかったのだろうね。もっとも、事件にグイグイ神秘を重ねてゆこうとしたのか、それとも、自分の優越を誇りたいためでもあったかもしれない。しかし、人形の神秘を強調するのだとしたら、かえってそんな小細工をやるよりも、いっそ扉《ドア》を開け放しにして、人形の指に
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