t。――とは何であろうか。その解《ほぐ》れきれない霧のようなものは、妙に筋肉が硬ばり、血が凍りつくような空気を作ってしまった。ところが、そのうちセレナ夫人の眼が異様に瞬《またた》かれたかと思うと、最初法水を見、それから、伸子に憎々しげな一瞥《いちべつ》をくれたが、すぐにその視線は、壇下の一点に落ちて動かなくなってしまった。そこには、云いようのない不吉な署名があった。法水が、右から左へという|もの云う表象《テル・テール・シムボル》――ちょうどそれに当るものが、クリヴォフ夫人の背に現われていたのだ。その指差している手の形をした血の溜りが、あろうことか指頭の方向を、右方の壇上――すなわち伸子の位置に向けていたからである。のみならず、あるいは気のせいかは知らないけれども、なんとなくその形が、竪琴《ハープ》にも似ているように思われるのだった。一同は云いしれぬ恐ろしい力を感じて、しばらくその符号に釘づけされてしまった。やがて、伸子は竪琴《ハープ》に顔を隠して、肩を顫《ふる》わせ激しい息使いを始めたが、法水は、それなり訊問を打ち切ってしまった。三人が出て行ってしまうと、熊城は熱のあるような眼を法水に
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