ェ不可能にされてしまった。あらかじめ観客の注意を散在せしめないために、階下の一帯を消燈しておいたので、廊下の壁燈が仄《ほん》のりと一つ点《つ》いているだけ、広間《サロン》も周囲の室も真暗《まっくら》である。その喧囂《けんごう》たるどよめきの中で、法水は、暗中の彩塵を追いながら黙考に沈みはじめた。そこへ、検事が歩み寄って来て、クリヴォフ夫人が背後から心臓を刺し貫かれ、すでに絶命しているという旨を告げた。
しかし、その間に法水の推考が成長していって、ついに洋琴《ピアノ》線のように張りきってしまった。そして、目前の惨事に、最初から現われてきた事象を整理して、その曲線に、一本の切線《カッティング・ライン》を引こうと試みた。――第一、演奏者中にレヴェズがいないという事だ。(しかし、聴衆の中にも彼の姿は見出されなかったのである)。それから、暗黒と同時にこの室《へや》が密閉されたという事――つまり、事件の発生前後の状況が、ともに同一であるという事だった。ところが、最後の開閉器《スイッチ》を捻《ひね》ったのは誰か――云い換えれば、最も重要な帰結点であるところの消燈の件《くだ》りになると、それに端なく
前へ
次へ
全700ページ中579ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング