に戻してしまった。その瞬間、あらゆるものが静止したように思われた。
ついに、黒死館事件の循環論の一隅が破られ、その鎖の輪の中で、法水の手がファウスト博士の心臓を握りしめてしまった――ああ閉幕《カーテン・フォール》。
それがちょうど六時のことで、戸外にはいつしか煙のような雨が降りはじめていた。その夜黒死館には、年一回の公開演奏会が催されていて、毎年の例によれば、約二十人ほど音楽関係者が招待されることになっていた。会場はいつもの礼拝堂で、特にその夜に限り、臨時に設備された大|装飾灯《シャンデリア》が天井に輝いているので、いつか見た、微かにゆらぐ灯の中から、読経や風琴《オルガン》の音でも響いてきそうな――あの幽玄な雰囲気は、その夜どこへかけし飛んでしまったかのように思われた。
けれども、その扇形をした穹窿《きゅうりゅう》の下には、依然中世的好尚が失われていなかった。楽人はことごとく仮髪《かつら》を附け、それに眼が覚《さめ》るような、朱色の衣裳を着ているのである。法水一行が着いた時は、曲目の第二が始まっていて、クリヴォフ夫人の作曲に係《かか》わる、変ロ調の竪琴《ハープ》と絃楽三重奏が、
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