Yを生餌《いきえ》にして、ファウスト博士を引き出そうとするのか」とさしも沈着な検事も仰天して、飛び掛らんばかりの気配を見せると、法水はちょっと残忍そうな微笑をして答えた。
「なるほど、道徳世界の守護神――支倉君! だが実を云うと、僕がレヴェズについて最も懼《おそ》れているのは、けっしてファウスト博士の爪ではないのだ。実は、あの男の自殺の心理なんだよ。レヴェズは最後に、こういう文句を云ったのだよ。|儂の血でこの裁きをしたら、いつかその舌の根から聴くことがあるでしょうから《マイ・ブラッド・ジャッジ・ファベイド・マイ・タング・トゥ・スピーク》――とね。それが、いかにもレヴェズが演ずる、悲壮な時代史劇《コスチューム・プレイ》のようで、またあの性格俳優の見せ場らしい、大芝居みたいにも思われるだろう。しかし、それは悲愁《トラウリッヒ》ではあるけれども、けっして悲壮《トラギッシュ》ではないのだ。つまりその一句と云うのが、『|ルクレチア盗み《レイプ・オヴ・ルクリース》』という沙翁《シェークスピア》の劇詩の中にあって、羅馬《ローマ》の佳人《かじん》ルクレチアがタルキニウスのために辱《はずか》しめをうけ、
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