ェ憤怒に代っていったが、ようやく涙に濡れた頬のあたりが落着いてきて、「ですから、私が未だに解しかねているという意味が、これで、すっかりお判りでございましょう。あの方は私が粗相で立てた物音には、いっこうに触れようとはなさらなかったのですから」
「まったく僕も、貴女の立場には同情しているんです」と法水は慰めるような声で云ったが、心中彼は何事かを期待しているらしく思われた。「ところで貴女は、ダンネベルグ夫人がこの扉《ドア》を開いた際を御覧になりましたか。いったいその時、貴女はどこにいましたね?」
「マア、貴方《あなた》らしくもない。まるで、心理前派の旧式探偵みたいですこと」と伸子は、法水の質問に魂消《たまげ》たような表情を見せたが、「ところが、生憎《あいにく》とそのとき室《へや》を空けておりました。電鈴《ベル》が壊れていたので、召使《バトラー》の室へ花瓶の後始末を頼みに行っていたものですから。ところが、戻ってまいりますと、ダンネベルグ様が寝室の中にいらっしゃるではございませんか」
「そうすると、以前から帷幕《とばり》の蔭にいたのを、知らなかったのでは」
「いいえ、たぶん私を探しに、寝室の中へ
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