A彼女を安堵《あんど》させるためにまず前提をおいてから、「ところで、貴女はあの夜、神意審問会の直前にダンネベルグ夫人と口論なさったそうですが」
「ええ、しましたとも。ですけど、それについての疑念なら、かえって私の方にあるくらいですわ。私には、あの方が何故お怒りになったのか、てんで見当がつかないんですの。実は、こうなのでございます」と伸子は躊《ためら》わず言下に答えて、いっこうに相手を窺視《きし》するような態度もなかった。「ちょうど晩食後一時間頃のことで、図書室に戻さねばならないカイゼルスベルヒの『聖《セント》ウルスラ記』を、書棚の中から取り出そうとした際でございました。突然|蹌踉《よろめ》いて、持っていたその本を、隅にある乾隆硝子《けんりゅうガラス》の大花瓶に打ち当てて、倒してしまったのでございます。ところが、それからが妙なんですわ。そりゃひどい物音がしましたけれども、別にお叱りをうけるというほどの問題でもございません。それなのに、ダンネベルグ様がすぐとお出でになって……でございますもの。私には未だもって、すべてが判然と嚥《の》み込めないような気がいたしております」
「いや、夫人はたぶ
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