ェ幻想家《ヴィジョナリー》となる時機にですな」
「いや、元来|儂《わし》は、そういう哲学問答が不得意でしてな」と警戒気味に、博士は眼を瞬《しばたた》いて法水を見た。そして、「しかし、貴方《あなた》はいま、糸と云われましたね。ハハハハ、それが何か令状と関係がおありですかな。法水さん、儂《わし》はこのままで凝《じ》っと、法律の威力を傍観していたいですよ」と早くも遺言書の開封に、不同意らしい意向を洩らすのだった。[#「洩らすのだった。」は底本では「洩らすのだった」]
「そりゃ云うまでもありません。家宅捜索令状などは、どこにも持っちゃいませんよ。だが、一人の辞職だけで済むものなら、たぶん僕等は法律も破りかねないでしょう」と熊城は憎々しげに博士を見据え異常な決意を示した。そのにわかに殺気立った空気の中で、法水は静かに云った。
「さよう、まさに一本の糸なんです。つまり、その問題は、算哲博士を埋葬した当夜にあったのですよ。たしか貴方は、あの晩この館へお泊りになられたでしょう。けれども、その時もしあの糸が切れなかったら――そうだとすれば、今日の事件は当然起らなかったはずです。ああ、あの遺言書が……。そ
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