ス故なら、空気中の濛気を中心に生じたのではなく、棧の上に溜った露滴が因で発したからなんだ。つまり、問題は、七色の背景をなすものにあった訳だが、……しかし、より以上の条件というのが、その虹を見る角度にあったのだ。言葉を換えて云えば、火術弩《かじゅつど》が落ちていた――つまり、当時犯人がいた位置のことなんだよ。しかも、あの隻眼《せきがん》の大女優が……」
「なに、押鐘津多子※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」熊城は度を失って叫んだ。
「うん、虹の両脚の所には、黄金《こがね》の壺があると云うがね。恐らく、あの虹だけは捉えることが出来るだろう。何故なら熊城君、だいたい虹には、視半径約四十二度の所で、まず赤色が現われる。勿論その位置というのが、ちょうど火術弩の落ちていた場所に相当するのだ。また、その赤色をクリヴォフ夫人の赤毛に対称するとなると、いかにも標準《ねらい》を狂わせるような、強烈な眩耀《ハレーション》が想像されてくる。けれども、近距離で見る虹は二つに割れていて、しかも、その色は白ちゃけて弱々しい」と法水はいったん口を閉じたが、みるみる得意気な薄笑《うすわらい》が泛《うか》んできて云った。
前へ
次へ
全700ページ中465ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング