フ左心室――それもほとんど端れに当る部分を刺し貫いていたのですが、あまりに自殺の状況が顕著だったために、その屍体に剖見を要求するまでには至らなかったのでした。そうなると第一の疑問は、左肺の下葉部を貫いたところで、それがはたして、即死に価するものかどうか――という事です。その証拠には、外科手術の比較的幼稚だった南亜戦争当時でさえも、後送距離の短い場合は、そのほとんど全部が快癒しているのですからね。そうそう、その南亜戦争でしたが……」と法水は莨《たばこ》の端をグイと噛み締めて、声音《こわね》を沈めむしろ怖れに近い色を泛《うか》べた。「ところで、メーキンスが編纂した、『南亜戦争軍陣医学集録』という報告集があるのですが、その中に、ほとんど算哲の場合を髣髴《ほうふつ》とする奇蹟が挙げられているのですよ。それは、格闘中右胸上部に洋剣《サーベル》を刺されたままになっていた竜騎兵伍長が、それから六十時間後に、棺中に蘇生したと云うのです。しかし、編者である名外科医のメーキンスは、それに次のような見解を与えました。――死因は、たぶん上大静脈を洋剣《サーベル》の背で圧迫したために、脈管が一時|狭窄《きょうさ
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