チと燃え上ったように熱っぽく感じました。けれども、その刹那、身体が右の方へ捻《ねじ》れていって、それなり、何もかも判らなくなってしまったのです。その瞬間でございましたわ――私が、刳《く》り込みの天井に蛾を見たのは。しかし、今朝がた行って見ますと、その蛾はいつのまにか見えなくなっていて、ちょうどその場所には、蝙蝠が素知らぬ気な顔でぶら下っているだけでした」
 伸子の陳述が終ると同時に、三人の視線が期せずして、打衝《ぶつか》った。しかもそれには、名状の出来ぬ困惑の色が現われていた。と云うのは、伸子に発作の原因を作らせたと目される、鐘鳴器《カリルロン》の演奏を命じた人物と云うのが、誰あろう、つい先頃皮肉な逆転を演じたところの、クリヴォフ夫人だったからだ。のみならず、伸子の云うがごとくに、はたして右の方へ倒れたとすれば、当然廻転椅子に現われた疑問が、さらに深められるものと云わねばならない。熊城は、狡猾《ずる》そうに眼を細めながら訊ねた。
「そうなって、貴女の右側から襲ったものがあるということになると、ちょうどそこには、階段を上って突き当りの扉《ドア》がありましたっけね。とにかく、くだらん自己犠
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