リ明《アリバイ》と云うものが恵まれておりませんでした。いいえ、私は最初から、この事件の終点におかれているんですわ。ですから、ここで幾ら莫迦《ばか》問答を続けたところで、結局この局状《シチュエーション》には批評の余地はございませんでしょう」と伸子は何度も逼《つか》えながら、大きく呼吸《いき》を吸い込んでから、「それに、私には固有の精神|障礙《しょうがい》があって、時折ヒステリーの発作が起ります。ねえそうでございましょう。これは久我鎮子《くがしずこ》さんから伺ったことですけども、犯罪精神病理学者のクラフトエーヴィングは、ニイチェの言葉を引いて、天才の悖徳《はいとく》掠奪性を強調しております。中世紀全体を通じて最も高い人間性の特徴とみなされていたのは、幻覚を起す――云い換えれば、深い精神的|擾乱《じょうらん》の能力を持つにあり――ですと。ホホホホホ、これでございますものね。すべてがそろいもそろって、それも、明瞭過ぎるくらいに明瞭なんですわ、もう私には、自分が犯人でないと主張するのが厭《いや》になりました」
 それは、どこか彼女のものでないような声音《こわね》だった。――ほとんど自棄的な態度で
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