ないだろうね。外部から放たれているものでないことは、とうに明らかなんだし、燐の臭気はないし、ラジウム化合物なら皮膚に壊疽《えそ》が出来るし、着衣にもそんな跡はない。まさしく皮膚から放たれているんだ。そして、この光には熱も匂いもない。いわゆる冷光なんだよ」
「すると、これでも毒殺と云えるのか?」と検事が法水に云うのを、熊城が受けて、
「ウン、血の色や屍斑を見れば判るぜ。明白な青酸中毒なんだ。だが法水君、この奇妙な文身《いれずみ》のような創紋はどうして作られたのだろうか? これこそ、奇を嗜《たしな》み変異に耽溺《たんでき》する、君の領域じゃないか」と剛愎《ごうふく》な彼に似げない自嘲めいた笑《えみ》を洩らすのだった。
実に、怪奇な栄光に続いて、法水を瞠目《どうもく》せしめた死体現象がもう一つあったのだ。ダンネベルグ夫人が横たわっている寝台は、帷幕《とばり》のすぐ内側にあって、それは、松毬形《まつかさがた》の頂花《たてばな》を頭飾にし、その柱の上に、レースの天蓋をつけた路易《ルイ》朝風の桃花木《マホガニー》作りだった。死体は、そのほとんど右はずれに俯臥《うつむけ》の姿勢で横たわり、右手は、
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