A右眼の白内障《そこひ》が因で舞台を退いた押鐘津多子が、それに髣髴《ほうふつ》となってくるのだ。しかし、いずれにしても、そういうクリヴォフ夫人の心像を、さらに結論として確実にするものがあった。つまり、ある一点に向って、以上四つの既知数が綜合されていったのだが……それは、ほかでもない夫人固有の病理現象――すなわち脊髄癆なんだよ。あの時クリヴォフ夫人は、眼を醒ました時に、胸のあたりで寝衣《ねまき》の両端が止められていたように感じた――と云った。けれども、あの病特有の輪状感覚([#ここから割り注]胸部に輪形のものが繞っているように覚えるという一徴候[#ここで割り注終わり])を考えると、そういう装飾めいた陳述をした原因が、あるいは、日常経験している感覚から発しているのではないかと疑われてくるだろう。それを僕は、あの虚言を築き上げた根本の恒数《コンスタント》だと信じているのだ」
 熊城は凝然《じいっ》と考えに沈みながらしばらく莨《たばこ》を喫《ふ》かしていたが、やがて法水に向けた眼には、濃い非難の色が浮んでいた。しかし、彼は稀《めず》らしく静かに云った。
「なるほど、君の云う理論はよく判った。け
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