シう》のように背後に倒れたのだ。そして、その機《はず》みに、鍵《キイ》と紐を裏側から蹴ったので、鎧通しが結び目から飛び出して床の上に落ちたのだよ。勿論伸子は、発作が鎮まると同時に、深い昏睡に落ちていったのだがね」と検事の毒々しい軽蔑を見返したが、法水は突然《いきなり》悲痛な表情を泛《うか》べて、
「だがしかしだ。伸子はどうして、あの鎧通しを握ったのだろうか。また、あの奇矯変態の極致ともいう倍音演奏が、何故に起されたものだろうか。ああいう想像の限外には、まだ指一本さえ触れることが出来ないのだ」といったんは弱々しげな嘆息を発したけれども、その困憊《こんぱい》げな表情が三たび変って、終《つい》に彼は颯爽《さっそう》たる凱歌を上げた。「いや、僕は天狼星《シリウス》の視差《パララックス》を計算しているのだっけ。またδ《デルタ》もあればξ《クシイ》もある! それ等を、一点に帰納し綜合し去ることが出来ればいいのだ」
そこで、空気が異様に熱してきた。もはや解決に近いことは、永らく法水に接している二人にとると、それが感覚的にも触れてくるものらしい。熊城は不気味に眼を据え、顔を迫るように近づけて訊ねた。
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