ェ起るんだぜ。つまり、猶太人《ジュウ》特有の或る風習を除いたら、その病理的|曲芸《サーカス》を演じさせることが不可能だと云うのだ」と驚くべき断定を下した。
 熊城はそれまで黙々と莨《たばこ》を喫《くゆ》らしていたが、不意に顔を上げて、
「ああ、伸子とヒステリーか……。なるほど、君の透視眼も相当なものさ。ただし問題を、癲狂院でなしに他の方へ転じてもらおう」と彼に似げない味のある言葉を吐いた。それに法水は、思いもつかなかった病理解剖を黒死館の建物に試みて、あくまでその可能性を強調するのだった。
「オヤオヤ熊城君、僕の方こそ、この事件が黒死館で起った出来事だという事に、注意してもらいたいんだよ。だいたい犯罪と云うものは、動機からのみ発するものではない。ことに、智的殺人犯罪は、歪んだ内観から動かされる場合が多いのだ。無論そうなると、一種|淫虐性《ザディスムス》の形式だが……往々感情以外にも、何かの感覚的錯覚から解放されず、しかも、絶えず抑圧を続けられる場合に発する例《ため》しがあるのだ。ちょうど黒死館の城砦《じょうさい》めいた陰鬱な建物に、僕はそういう、非道徳的な――むしろ悪魔的な性能を、すこ
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