「ばかりの眩耀《ハレーション》で覆われているにもかかわらず、その上方の部分が映っている後方の鋼鉄扉には、はたしてどこから映ったものか、くっきりと確かな線で、しかも典麗な若い女の顔が現われているのだった。さらにいっそう薄気味悪いことには、擬《まが》うかたなくそれが、黒死館で邪霊と云われるテレーズ・シニヨレだったのである。法水は側《はた》の驚駭には関《かま》わず、その妖しい幻の生因を闡明《せんめい》した。
「判ったでしょう田郷さん、混乱した色彩があの距離まで来ると、始めて統一を現わすのですよ。しかし、その点描法《ポアンチリズム》の理論と云うのは、この場合単に、分裂した色彩を綜合する距離を示したのみのことです。無論その色彩だけでは、朦朧《もうろう》としたものがこの漆扉《うるしど》へ映るにすぎないでしょう。実はその基礎理論の上に、さらに数層の技巧が必要なのです。と云うのは、ほかでもないのですが、今世紀の初めに黴毒菌《スピロヘーター》染色法として、シャウディンとホフマンが案出した『暗視野照輝法』なのですよ。元来|黴毒菌《スピロヘーター》は無色透明の菌なので、そのまま普通の透視法を用いたのでは、顕
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