驍ネらずとも、まったくたまらない事件[#「たまらない事件」に傍点]に違いないのである。検事も腹立たしげに吐息して云った。
「ただただ驚くばかりさ。僅々《きんきん》二十時間あまりの間に、二人の死者と二人の昏倒者が出来てしまったんだ。どのみち、問題になるのは、文字盤が廻される以前さ。それまでに、犯人は昏倒させた津多子を、ここへ運び入れたのだろう」と云って、法水を確信ありげな表情で見て、「しかし法水君、だいたいの薬量が判れば、それを咽喉《のど》に入れた時刻の見当がつくだろう。そこに僕は、何かあるのじゃないかと思うよ。この昏睡には、きっと裏のまたその裏があるに違いないのだ」と意気地なくも検事も、やはり津多子夫人に纏《まつ》わる、動機の確固たる重さに引き摺られるのだった。
「たしかに明察だ」法水は満足そうに頷《うなず》いたが、「だが、薬量などはどうでもいい事なんだよ。何より問題なのは、犯人にこの人を殺す意志がなかったという事だ[#「この人を殺す意志がなかったという事だ」に傍点]」
「なに、殺す意志がない※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」検事は思わず鸚鵡《おうむ》返しに叫んだが、すぐに異議を唱え
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