A鐘《チャペル》を叩いた。そして、八時を報じたのであった。
「抱水クロラールだ」法水は呼気を嗅《か》いだ顔を離すと、元気な声で云った。「瞳孔も縮小しているし、臭いもそれに違いない。だが、生きていてくれてなによりだったよ。ねえ熊城君、津多子夫人の恢復《かいふく》で、この事件のどこかに明るみが差すかもしれないぜ」
「なるほど、薬物室の調査は無駄じゃなかったろうがね」と熊城は苦いものに触れたような顔になって、
「だが、おかげさまで、とんだ悲報を聴かされてしまったよ。物凄い幻滅だ。あの銅版刷みたいに鮮かな動機を持った女が、なんという莫迦《ばか》げた大砲を向けてきたんだい。一つ君に、霊媒でも呼んでもらおうかね」
事実熊城が云ったように、遺産配分からただ一人除かれていて、最も濃厚な動機を持っているはずの押鐘津多子夫人には、どこかに脆《もろ》い、破れ目でも出来そうなところがあるように思われていた。その矢先に、兇悪無惨な夢中の人物となって現われたばかりでなく、しかも、法水の推測を覆《くつがえ》して、今度は不可解な昏睡状態に、微妙な推断を要求しているのだった。その予想を許されない逆転紛糾には、ひとり熊
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