思議な二重人格は身体的にも消失せりと伝えらる。
[#ここで字下げ終わり]

「まさにそうなのです」とクリヴォフ夫人は得たり顔に頷《うなず》いて、他の二人に椅子を薦《すす》めてから、「私はなんとかして、心理的にだけでも犯人の決行力を鈍らしたいと思うのですわ。次々と起る惨劇を防ぐには、もう貴方がたの力を待ってはおられません」
 それに次いでセレナ夫人が口を開いたけれども、彼女は両手を怯々《おずおず》と胸に組み、むしろ哀願的な態度で云った。
「いいえ、心理的に崇拝物《トーテム》どころの話ですか。あの人形は犯人にとると、それこそグンテル王の英雄([#ここから割り注]ニーベルンゲン譚中、グンテル王の代りに、ブルンヒルト女王と闘ったジーグフリートの事[#ここで割り注終わり])なんでございますからね。今後も重要な犯罪が行われる場合には、きっと犯人は陰険な策謀の中に隠れていて、あのプロヴィンシア人だけが姿を現わすにきまってますわ。だって、易介や伸子さんとは違って、私達は無防禦ではございませんものね。ですから、たとえば遣《や》り損じたにしても、捕えられるのが人形でしたら、また次の機会がないとも限りません
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