うな」
「鎮魂楽《レキエム》※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」と鎮子は怪訝《けげん》な顔をして、「だが、あれを見て、いったいどうなさるのです?」
「それでは、まだ御存じないのですか」法水はちょっと驚いた素振を見せたが、厳粛な調子で云った。
「実は、終曲《フィナーレ》近くで、二つの提琴《ヴァイオリン》が弱音器を付けたのですよ。ですから、かえって私は、ベルリオーズの幻想交響楽《シンフォニカ・ファンタジア》でも聴く心持がしました。たしかあれには、絞首台に上った罪人が地獄に堕ちる――その時の雷鳴を聴かせるというところに、雹《ひょう》のような椀太鼓《ティムパニー》の独奏《ソロ》がありましたっけね。そこに私は、算哲博士の声を聴いたような気がしたのです」
「マア、とんでもない誤算ですわ」と鎮子は憫笑《びんしょう》を湛えて、
「あれは、算哲様の御作ではございません。威人《ウェルシュ》の建築技師クロード・ディグスビイ自作ものなのです。とにかく、あんなものをお気になさるようじゃ、もう一人|死霊《おばけ》がふえた訳ですわね。ですが、貴方の対位法的推理にぜひ必要なものなら、なんとか捜し出してまいりましょう」
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