のを要求する。そうすればたぶん、犯人の飛躍的な不在証明《アリバイ》を打破出来やしないかと思うよ」と法水は押し返すように云ったが、続いて二つの軌道を明示した。「とにかく涯《はて》しない旅のようだけども、風精《ジルフェ》を捜す道はこの二つ以外にはない。つまり、結果において、ゲルベルト風の共鳴弾奏術が再現されるとなれば、無論問題なしに、伸子が自企的な失神を計ったと云って差支えあるまい。また、何か擬音的な方法が証明されるようなら、犯人は伸子に、失神を起させるような原因を与えて、しかる後に鐘楼から去った――と云うことが出来るのだ。いずれにしろ、倍音が発せられた当時、ここには伸子のほか誰もいなかったのだ。それだけは明らかなんだよ」
「いや、倍音は附随的なものさ」と熊城は反対の見解を述べた。「要するに、君の難解嗜好癖なんだ。たかが、論理形式の問題にすぎんじゃないか。伸子が失神した原因さえ解れば、なにも君みたいに、最初から石の壁の中に頭を突っ込む必要はないと思うよ」
「ところが熊城君」と法水は皮肉にやり返して、「たぶん伸子の答弁だけを当《あて》にしたら、まずこんな程度にすぎまいと思うがね。気分が悪くな
前へ 次へ
全700ページ中189ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング