経を管掌す[#ここで割り注終わり])へ消え失せたり――になってしまうぜ」
「冗談じゃない、どこに外力的な原因があるもんか。それに痙攣《けいれん》はないし、明白な失神じゃないか」今度は検事がいがみ掛った。「どうも君は、単純なものにも紆余《うよ》曲折的な観察をするので困るよ」
「勿論明白なものさ。しかし、失神《トランス》――だからこそなんだ。それが精神病理学の領域にあるものなら、古いペッパーの『類症鑑別』一冊だけで、ゆうに片づいてしまうぜ。無論|癲癇《てんかん》でもヒステリー発作でもないよ。また、心神顛倒《エクスタシー》は表情で見当がつくし、類死《カタレプシー》や病的半睡《モービッド・ソムノレンス》や電気睡眠《エレクトリッシュ・シュラフズフト》でもけっしてないのだ」と云って、法水はしばらく天井を仰向いていたが、やがて変化のない裏声で云った。
「ところが支倉《はぜくら》君、失神が下等神経に伝わっても、そういう連中が各々《めいめい》勝手|気儘《きまま》な方向に動いている――それはいったい、どうしたってことなんだい。だから、僕はこういう信念も持たされてしまったのだ。例えば、鎧通しを握っていたこと
前へ 次へ
全700ページ中176ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
小栗 虫太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング