思えば、突忽《とっこつ》として現われたのは何あろう、現在|眼《ま》のあたり見る鬼蓮《おにばす》なのである。それであるからして、熊城でさえも一時の亢奮《こうふん》が冷《さ》めるにつれて、いろいろと疑心暗鬼的な警戒を始めたのも無理ではなかった。まったく、意表を絶したこの体態《ていたらく》を見ては、かえって反対の見解が有力になってゆくではないか。易介の咽喉を抉《えぐ》ったと目されている短剣を握り締めて、伸子はこれをとばかりに示しているけれども、一方それ以上厳密に、失神するまでの経路が吟味されねばならない。結論はその一つだった。王妃ブズールが唱えば、雨となって降り下って来る――黒人《ニグロ》の penis に、とうとうこの事件の倒錯性が狂い着いてしまったのである。
 さてここで、鐘鳴器《カリリヨン》室の概景を説明しておく必要があると思う。前篇にも述べたとおり、その室は礼拝堂の円蓋《ドーム》に接していて、振鐘《ピール》のある尖塔の最下部に当っていた。そして、階段を上《あが》りきった所は、ほぼ半円をなした鍵形の廊下になっていて、中央――すなわち半円の頂天とその左右に三つの扉があり、なお、室内に入っ
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