ものがなけりゃならない。区劃扉は前後とも閉じられているのだから、残っているのは、拱廊《そでろうか》の円廊側に開いている扉一つじゃないか。しかし、先刻《さっき》二度目に行った時は、確か左手の吊具足側の一枚を、僕は開け放しにしておいたような記憶がする。それに、あそこは他の意味で僕の心臓に等しいのだから、絶対に手をつけぬように云いつけてあるんだ。無論それが閉じられてしまえば、この一劃には、吸音装置が完成して、まず残響に対しては無響室《デット・ルーム》に近くなってしまうからだ。だから、僕等に聞えてくるのは、テラスから入る、強い一つの基音よりほかになくなってしまうのだよ」
「すると、その扉は何が閉じたのだ?」
「易介の死体さ。生から死へ移って行く凄惨な時間のうちに、易介自身ではどうにもならない、この重い鎧《よろい》を動かしたものがあったのだ。見るとおりに、左右が全部斜めになっていて、その向きが、一つ置きに左、右、左となっているだろう。つまり、中央の萌黄匂《もえぎにおい》が廻転したので、その肩罩板《そでいた》が隣りの肩罩を横から押して、その具足も廻転させ、順次にその波動が最終のものにまで伝わってい
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